えっとお。

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秋も深まると、南の島にはたくさんの扇風機がやってくる。越冬のためだ。
中でものぼるさんは最古参。
ガタバタガサッ。バタガサッ。
旧式すぎる金属製の羽根で重い体を引きずるように飛ぶ姿は不安のかたまり。
ふらふらとっとゆらとっと。
山林や街中を避けて、低空を潮風にのって南下する。
主治医にはサビがつくから海沿いを避けるように言われたが、やっぱり海はいい。旅情がある。
のぼるさんは大正9年生まれの98才。去年までは妻のセツさんと一緒だったけれど、今年はひとり。
誰にも使われなくなってもう20年になる。奄美あたりで余生を過ごせたら。そんなふうに思ったものの、たどり着けそうにない。
南にいればきっと誰かがスイッチを入れてくれる。若い扇風機には負けても、汗をひかせるくらいならできる。
鰹節を干さないか?
思いがけず声をかけられたのは枕崎だった。
上空を羽根のない扇風機がゆく。
けっぱるか。もうひと花。
公開:18/09/23 09:23
更新:18/09/23 11:09

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