悪魔のおにぎり

悪魔のおにぎりが話題だ。
本物の悪魔が握っているというので、店は連日長蛇の列らしい。

あたしは雑誌の取材のため、そのおにぎり屋を訪れた。
｢最近は悪魔家業も大変でねぇ。多角経営っすよ」
真っ黒な悪魔は、あたしの目の前で自慢のおにぎりを握った。
｢へい、お待ち」
白米に海苔を巻いただけの、なんの変哲もない普通のおにぎり。だが、ひと口食べると絶妙の塩加減とともに舌先でほろりとほぐれた。確かに旨い。あまりの旨さのせいか、頭が少しボーっとするくらいだわ。
｢あら⋯⋯このおにぎり、具はまったく入ってないんですね？」
中心部はぽっかりと空洞になっていた。
｢ええ、余計なものは入れない主義っす」
悪魔はさらに追加のおにぎりを握った。
｢クセになる味だわ！」
ああ、もう止まらないわッ！
貪り喰うあたしの横で、悪魔はそっと呟いた。
｢そりゃもう、魂を込めて握ってますからねぇ」
そしてニヤリと笑った⋯⋯。