入浴剤

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近所の銭湯は、日替り入浴剤入りの大浴槽が人気だ。
趣味で時々番台でバイトしているおばあちゃんが、丁度それを入れてくれた。今日のは粒々が実に複雑な形をしている。
「遠くの業者が、手間暇かけて作っておる」
「へぇ、なんでこんな面白い形に」
旅がてら業者さんに訊いてみたい。
浸かっていると疲れが湯に溶け出していく。同時に、(誰かが言ってやらねば)とか(諦めたけどやっぱり欲しいよなぁ、あれ)とか急に積極的な思いも生じてきた。汗や涙がだあだあ顔を流れ、体が温まる。

が、湯あたりしたみたいだ。
「きつかったようじゃの。ほれ、サービス」
フルーツ牛乳を手渡しながらおばあちゃんが見せてくれた丸瓶には、「入欲剤」の文字が。
「他人の欲が入ってくる」
「あー、それでか。でも自分のどろどろした気持ちもどっか行った気がするよ?」
「そうかい。ちなみにこの入欲剤は、ここの残り湯を衛生的に精製して作るそうじゃよ」
ホラー
公開:18/09/21 02:41
更新:18/09/21 10:20

UKITABI

ショートショート初心者です。
作品をたくさん書けるようになりたいです。

「潮目が変わって」(プチコン 海:優秀作)
「七夕サプライズ」(七夕ショートショートコンテスト:入選)
「最高の福利厚生」(働きたい会社 ショートショートコンテスト:入選)
選出いただきました。

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