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 彼女は屋上の縁に腰掛け、中空で両足をブラブラさせていた。僕はその後ろで鉢植えの世話を続けていた。
「人がいるビルだとね、中の人と目があってしまうことがあって、それは気持ちの悪いものらしいのよ」
「じゃ、今はやめといた方がいいね」
 彼女は溜息をつき、空高く手を差し伸べた。
「どうしてそんなに死にたいの?」
 そう尋ねると、彼女は腰をぐるりと捩じってこちらを見た。顔の半分はサングラスに隠れている。スカートがビル風を孕む。
「そういう質問をされたくないから、ここに来たんだけどな」
 彼女は背筋をピンと延ばして立ちあがり、ゆっくりと背中の方へ身体を傾けた。そしてそのまま真っすぐ、干してあるクッションの上へ倒れ込んだ。
 僕は、彼女と何かを共有できるとも思わなかったし、彼女に希望を見出してもいなかった。それでも、僕は彼女に近づき、そのサングラスに映る空に身を投げ出そうとしていた。
ファンタジー
公開:18/09/20 21:09
更新:18/09/21 21:45

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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