虚像の幸せを運ぶ

2
6

「幸せなんて本当にあると思うかい?」

澄み切った青空のように美しい羽を折り畳み、溜息をつくように鳴く。
「君がそれを聞くのかい?」
真っ黒に塗りつぶされた羽を広げ、鴉は大げさに驚いてみせた。
その姿を一瞥し、ひどく疲れた様子で首掛けカバンを開けてみせる。
青い鳥なら誰もが持つ『幸せ』が入った鞄だ。
「おや?君、幸せはどこにやったんだい?」
「もう随分前から無くなってるんだ。幸せを運んで、運んで、いくらやっても切りがない」
「幸せを運ぶ君は、不幸せだってわけだ。まったく、人は幸せってやつをすぐ使っちまうらしい」
呆れて嘴をカチカチと鳴らす鴉に、青い鳥は重い嘴を開けてチルチルと鳴いた。
「箱の中身が空でも気にしやしない。届いた物には興味がないのさ。僕らが運ぶって事自体が、彼らにとって意味があるらしい」
「プラシーボ効果ってやつかい?」

「さてね。どっちにしろ青い鳥の仕事は変わりゃしないさ」
ファンタジー
公開:18/09/17 14:02
更新:19/03/28 00:01

mono

思いつくまま、気の向くまま。
自分の頭の中から文字がこぼれ落ちてしまわないように、キーボードを叩いて整理整頓するのです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容