夕焼けの中の殺意

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 草原の中に立つ彼女の白いワンピースは、夕焼けで赤く染まっていた。微動だにしない彼女は、まるで空の一部になったようだった。
 彼女の頬を伝う一筋の涙さえも、夕焼けの前では色を変えられてしまう。しかし、彼女の思いを鑑みると、その色はある意味では適切なのかもしれない。
 足元の草は枯れ、土が見えている。丁度、ひと一人が寝転がった形だ。
 末期の癌と診断された母は、幾度の手術の末に退院した。しかし、待っていたのは遺産相続の話をする遠い親戚。絶望した母は、思い出の草原に死に場所を求めた。
 父と母の思い出の場所が親子の思い出の場所になり、今では彼女一人の最低な思い出の場所になった。
 親戚は母の死を幸せな死だと言った。思い出の場所で死ぬことが出来たのだからと。死んでいった母の思いを知る人はもう居ない。

 「私もすぐ行くよ」

 母を殺した場所で一人呟く彼女の姿を見た者はいない。
ミステリー・推理
公開:18/09/17 01:49

Y.S

社会人になってから小説のアイデアが湧かなくなったので、リハビリがてらショートショートを書いていこうと思います。

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