透明になる薬

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幼い頃から、私は誰にも見えていないのではないかと思うことが、よくあった。
別にいじめられたりだとか、そういうことがあったわけではない。ただふとしたとき、同じ空間にいる全ての人や空気が自分を通り抜けていくような、アクリルのようななにかに隔てられているような、そんな言いようのない虚無感が、胸に巣くっていた。

仕事帰り、駅前の暗がりで怪しい露店商から「透明人間になる薬」を買った。
すでにそのような存在である私には無用の長物にも思えたが、珍しく声をかけてきた人間である露店商への、お礼のような気持ちも少しはあった。
薄茶の小瓶に入っているそれを歩きながら飲み干すと、たちまち私の体はすうっと薄くなった。と同時に、道の向こう側からトラックが私めがけて突っ込んでくるのが見えた。
透明なまま高く跳ね上げられた私は、ようやく本当に誰の目にも触れない存在となって、なぜかひどく救われた気持ちで、天へ溶けた。
その他
公開:18/09/18 23:42
更新:18/09/19 00:02

ゆた

高野ユタというものでもあります。
幻想あたたか系、シュール系を書くのが好きです。

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