卑弥呼と八百万の神

伊邪波ヒミコは、あの卑弥呼ではないかと噂されていた。
生後三カ月のある日。
「卑弥呼じゃ神の使徒として生まれ賜うた」そう両親の前で呟いたという。

雑誌記者の男は、その真相を探るため、孤島で開かれる神霊祭に来ていた。男は祭場の岩陰から様子を伺った。岸壁の広場にヒミコの後援会らしい民衆が白装束姿で集まった後、赤い着物姿のヒミコが設置された祭壇に現れた。
祝詞を唱え、大海原に大幣を左右に振ると、地平線の向こうから、無数の光の玉が向かってきた！光の玉は天空を舞い、祭壇の前に舞い降りた！ヒミコが神々を呼び寄せたのだ！男は震え、カメラを構えた。
「俺は、八百万の神々を実写しようとしているんだ！」
レンズをヒミコに向けた刹那、頭上で雷鳴が轟いた。
民衆たちは落雷した岩陰に視線を集める。
「ヒミコ様。あれは神の怒りでございましょうか」
「腹の黒い鼠がいたようじゃ。さあ民よ！神人和楽の祭典を始めようぞ！」