対岸の火

2
4

 対岸に火が見えた。何人かは歓声をあげて沼へ入った。彼らはみな沼に呑まれた。
「沼を左に迂回するしかない」
 父はそう言った。我々は再び歩き始めた。
「あの火はなんだったのでしょう?」
 僕は父にたずねた。父は「いけばわかる」と言った。
 沼からは魚や貝が、岸では野草や木の実が採れた。食料は、どこででも確保できた。
「なぜ移動しなければならないのか?」
 そう主張する者も現れた。
「次に会う時は、敵同士だ」父はそう告げて、彼らの好きにさせた。
 住みやすそうな地を過ぎるたび、我々は人数を減らしていった。
「沼を左に迂回すること」
 父はそう言い残して死んだ。僕たちはこれまでと同じように進み、同じように居残った。

 ある朝、子供達の歓声で目が覚めた。対岸にたくさんの火が見えた。 僕は亡き父に祈った。

 対岸から、火のついた矢が次々と放たれ、我々は炎に包まれた。
 移動は終わった。
ファンタジー
公開:18/09/14 15:42
更新:18/09/14 21:40

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容