おおぎり 横顔 その3

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あの人の横顔を見ている。
幸せだった。
あの人の見つめる先が私でなくても。
誰にも分かってもらえないだろうけれど、私は確かに幸せだったのだ。

土手のベンチに座るあの人を、隣の隣のベンチに座って見ていた。
真剣な表情で、ただただずっと、投げては打ち、走る姿を見ている。
眼差しが寂しそうだと、ある時気付いた。
どんな顔で立ち去るのか、見たいと思った。

日が暮れ、学生さんたちが帰り支度を始めても動く気配がない。
グラウンドが空になっても動かない。

しばらくして、ゆっくりと立ち上がるのが見えた。
静かに歩いていく。
ほんのわずかリズムが崩れた歩調だった。
横顔にはどこか、何かを諦めたような色があった。

私は。私は、踏み込んではいけないあの人の領域に、足を踏み入れたような、そんな気分になった。
見ていてごめんなさい。
興味本位であなたに触れてごめんなさい、と心の中で繰り返した。
その他
公開:18/09/12 20:52

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