涙あめ

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ふらりと迷い込んだ路地裏。辺りを見渡すと、 “涙あめ屋”という店を見つけた。


店主は初老の男性。ゆっくりとした声で言った。
「いらっしゃいませ。“涙あめ”をお求めですか?」
「いえ…“涙あめ”が何か気になって」

店主は、雫のかたちをした飴を差し出し、それを舐めるように言った。
その飴を舐めると…ある光景が脳裏に浮かんだ。
それは…泣いている私だった。小学生の頃のひとりぼっちの私。

驚いて、店主を見る。
「“涙あめ”はですね、人の涙を含んだ飴でございます。“涙あめ”を舐めると、涙の持つ記憶が舐めた人に伝わるのです」

そして、店主は言った。
「“涙あめ”のほとんどは、悔しさや辛さなどの涙から出来ています。“涙あめ”を噛めば…その記憶と決別できるとも言われています」


私は、“涙あめ”を噛まなかった。
だって、今があるのは、あの頃があるからなのだから…。
その他
公開:18/09/12 18:44
更新:18/09/12 18:47

すみれ( どこか。 )

書くこと、読むことが大好きな社会人1年生。
青空に浮かぶ白い雲のように、のんびり紡いでいます。
・プチコン「新生活」 優秀賞『また、ふたりで』
・ショートショートコンテスト「節目」 入賞『涯灯』



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