人魚姫 ハッピーエンド

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 城の窓からは大海を見渡せる。瑠璃紺に輝く郷里。遠くない未来に、私はあそこに還るだろう。小さな泡沫となって。
「またここにいたのか」
 振り返ると彼がいた。薄花色の瞳子が心配げに揺れている。
 安心させたくて、傍らにあった紙に瑠璃紺を描いて差し出した。
 微笑む私を見て、彼が真剣な面様になる。
「話があるんだ」
 彼の双眸に射抜かれ、刹那動けなくなる。その瞳にははっきりと私が映っていた。
「君の絵が好きだ。優しさの中に強い意力が秘められた、その瞳が。君が何者であろうと、言葉が交わせなくともかまわない。縁談も国政も弟に譲る。だから、これから先もぼくの側にいてくれないか」
 彼の指頭が目元を拭ったかと思うと、薬指をやおら撫でた。滲む眼界の中で煌めくそれを見て、私はそっと微笑んだ。
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公開:18/09/10 19:36
人魚姫 童話 アンデルセン

青木ウミネコ( 東京都 )

二十代半ば、会社員のかたわら執筆しています。
まだ拙い部分もありますが、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

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