怪物

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こんなにも天気がいいのに雨がぱらついていて。そのことは私にあの日を余計思い出させた。

「う、うわああああああ」ぷつり。

通りがかりの人、ごめんなさいね。この手は自分で制御できないの。全てを放棄してしまったの。もうただ1つの使命しか覚えてない。

気がついたら怪物になっていた。
だけど不思議な納得もあった。

蕀の手はどこまでも伸びて枝分かれ、人を傷つける事を求めた。血走った赤い目は人を恐怖で満たし、その場に留めるためにあった。

「君は…」あの人の怯えた声。その声に、歓喜が電流のように走る。

やっと見つけた愛しい人。どんなに会いたかったか。こっちに来て首をちょうだい。首だけのあなたに口づけたい。そして終わらせましょう。

まるで生気がないあなた。
観念して殺される前の、羊のように動かない。そう、それでいい。

今この時は、うっすらかかる虹も場違いで、何の意味もなさない現象でしかない。
ホラー
公開:18/09/11 19:24
更新:18/09/12 06:21

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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