下駄箱の除湿剤

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 変死した女の部屋に、五人の刑事がいた。その一人が私で、水道料金の請求書や、下駄箱の中などを調べていた。
 流し台の引出しから日記を発見した誰かが、感に絶えないといった唸り声を発した後で、音読を始めた。
『…私が普段やらないような手を使ってみると、それまで威張っていたのが嘘のようになり、あまりの意外さに狼狽してしまったようだった。けれど、それが今までに無い感覚を呼び起こすのだと気付くと、成す統べなく私の思うがままになり、その後は何をしようと全く抵抗を示さず、時折恨めしげにこちらを見詰める程の従順さを身に付けた。それはそれで誇らしくもあり、また情けないような気分だったけれど、嫌悪感だけはとうとう無くならなかった…』
 私を除く四人は、それぞれに重たい息を吐いた。
 その時私は、下駄箱の奥にポツンと残されていた除湿剤を満たしている、トロリとした水溶液を、飲み干してしまいたくて仕方がなかった。
ミステリー・推理
公開:18/09/08 16:20

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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