歯ごたえのあるひらがな

「歯ごたえのあるひらがな」
口内で特定の発生をしにくくするタイプの医薬品である。
味と見た目と材料はグミと同じ、つまりグミであるのだが、しっかりと続きの言葉が発声できるときにしか発声ができない。

友人のNはこのひらがなのおかげで連発性のどもりを軽減でき、ある程度自信をもって人と話せるようになった。
元々根は社交的であったのだろう。その後は多くの友人を作り、結婚式では友人代表としてスピーチを頼まれることも多い。

「今後、二人の人生が今日を境により……」
ひらがなを噛めば堂々としたものである。
毎回このスピーチは大体同じ内容であることは友人のみんながよく知っている。が、事情もみんな野暮を言わずに見守っていた。

あと2分くらいで終わると思った矢先、Nはスピーチを早々に切り上げた。
怪訝な顔が並んだ友人席に、額に汗をびっしりかいたNが席に戻ってきた。
「かかか噛みすぎた」