カタクチイワシチャリン

カツオの一本釣り漁師を始めて７年。11ヶ月船で働き、1ヶ月休むぼくに、浮気もせず彼女は家を守り続けている。
そんな彼女にプロポーズしたのは3年前。漁師の妻に誇りをもって欲しくて婚約指輪にこだわった。今となっては、完全に熱い想いが空回りしていた。なにしろ、指輪にカタクチイワシが八匹入っているのだから。カツオはイワシを撒いて釣る。だからイワシへの感謝は船員一同忘れたことがない。
そんな思いをつめまくった指輪を妻は、部屋に飾ってくれている。

携帯にメールが届く。
「みーがぬいぐるみ喜んでいたよ。けど、大きくなったらパパからカタクチイワシチャリンをもらうって。」
妻に指輪を渡した時
「カタクチイワシチャームリング」と、名前までつけていたことを思い出した。
2歳の娘は、この長い指輪の名前がうまく言えず、
カタクチイワシチャリンと呼ぶのだろう。
明日船は焼津に着く。妻と娘に早く会いたい。