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艦の3/4を書庫が占めるおかげで、デッキから伸びるプロムナードは散歩に少し物足りない。すぐ到着してしまう総合カウンターで指紋と虹彩の認証を終え、形状記憶流鋼の棒を嵌め込み書庫番号を入力すれば、棒は一瞬で鍵へと姿を組み変える。後はそれを目的の鍵穴へ差し込み右へ回すだけだ。解錠を確認した僕はそそくさと相棒の背に隠れた。露骨な溜息は聞かなかったふりをすればいい。
…さて、僕は先程「いつもと同じ一日が今日も始まろうとしていた。」と言ったが、あれは大嘘だ。
地球を離れた書庫でも稀に紙魚と呼ばれるモノがわく。今日のソレは巨大なイカの形をしていた。長い触腕が扉を抉じ開け飛び出してくる。だが相棒は動じる事なくそいつを捕え、舌舐めずりと共に書庫から引きずり出した。窓の外では標識恒星の間を縫い、郵便船と宇宙鯨がすれ違った。
宇宙とは、謂わば広大な海なのだ。僕らの移動図書艦もまた、滑るように航路を游ぐ。
…さて、僕は先程「いつもと同じ一日が今日も始まろうとしていた。」と言ったが、あれは大嘘だ。
地球を離れた書庫でも稀に紙魚と呼ばれるモノがわく。今日のソレは巨大なイカの形をしていた。長い触腕が扉を抉じ開け飛び出してくる。だが相棒は動じる事なくそいつを捕え、舌舐めずりと共に書庫から引きずり出した。窓の外では標識恒星の間を縫い、郵便船と宇宙鯨がすれ違った。
宇宙とは、謂わば広大な海なのだ。僕らの移動図書艦もまた、滑るように航路を游ぐ。
SF
公開:18/09/09 01:21
更新:18/09/09 06:57
更新:18/09/09 06:57
移動図書艦シリーズ
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