全問正解

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寂れた文具店で不思議な鉛筆について話を聞いた。使えば必ず正しい答えを教えてくれる鉛筆を、受験生の俺に譲ってくれるのだという。
「これ、使いかけっすよね」
「いろんなひとが使いましたから」
「便利なのに手放すんすか」
「幸運をお裾分けしたかったんでしょう。あるいは……」
続きの言葉は袋詰めの音に掻き消されたが、店主の言ったことは本当だった。
模試では鉛筆がひとりでに動いた。あえて俺が書き直したところだけが不正解で、他はすべて正解。授業中の口頭の質問でもノートに答えを記してくれる。
確実となった大学生活を妄想したところでふと、斜め前に座るあの子に目が留まる。
あの子の推薦受験が終わったら告白しようか。付き合おう、いや、付き合ってほしい? シンプルに、好きなんだ、かな。返事は、なんだろう。
鉛筆につられて右手が動き出す。
『ごめん、無理』
全てを見通す鉛筆が怖くなり、今日にでも返そうと決めた。
その他
公開:18/09/05 21:00
更新:18/09/06 00:57

みなみ

はじめました。はじめまして。

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