シェフのスペシャリテ

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予約は抽選制だった。
妻が教えてくれた謎のレストランのHPには、予約応募フォームと店唯一のメニュー「ラスト」の記載しかなかった。客が一番求めているものをずばり当てて出してくれるらしい。面白い。欲望(LUST)が由来なのだろう。
「結婚5周年のため?」
入浴中の俺の代わりに予約受付を報せる非通知電話を勝手にとった妻に笑顔で訊ねられ、「違う」とは言えなかった。折しも記念日が近く、「ああ」と答えた俺は今こうして、テーブルが一卓しかないその店で妻と向かい合っている。
目の前にいるのは不倫相手のはずだった。妻を介して彼女と出会ったことで抱いている良心の呵責すら、いわば恋のスパイスだ。
「お待たせ致しました」
磨き込まれたクロシュの輝きに、口元を緩ませた俺が映る。妻が微笑み、クロシュが持ち上がる。
彼女とのキス写真が俺の皿に、離婚届が妻の皿にのっていた。
「私たちの最後(LAST)のディナーよ」
その他
公開:18/09/07 21:00
更新:18/09/09 17:19

みなみ

はじめました。はじめまして。

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