カタクチイワシチャリン

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昼下がり、服のボタンが引っ掻かれたように外れた。台所の下に潜ってしまったのか、見当たらない。探すのは諦めた。
虚ろに茶碗を洗う吉子は台所の窓を見る。台所の窓は元飼い猫マーガリンの出入り口だ。
ペットロス。台所で洗い物をしてると心が痛い。

真夜中、マーガリンは猫又と豪徳寺にいた。
昔、人家で飼われている猫が年老いて猫又に化け人を食べると考えられ、猫を長い年月にわたって飼うものではないと言われた。昔の猫は妖怪になってお別れをしたのだ。
今現代、境内の招き猫の1つがイワシの匂いがする。その後ろに穴があり大切な人のボタンを入れる。
「カタクチイワシチャリン」
マーガリンはボタンをひとつ入れた。

朝、吉子は猫の声を聞いたような気がした。
「そういえば昔ヤンチャな猫が家にいたっけ」
もう、遠い記憶。
朝食を終えて台所で洗い物をする。
台所の窓を吉子はこの日から、見つめる事はなかった。
ファンタジー
公開:18/09/07 03:14

さささ ゆゆ( 東京 )

最近生業が忙しく、庭の手入れが疎かな庭師の庭でございます。

「これはいかんっ!!」と突然来ては草刈りをガツガツとし、バンバン種を撒きます。

なので庭は、愉快も怖いも不思議もごちゃごちゃ。

でもね、よく読むと同じ花だってわかりますよ。


Twitter:さささ ゆゆ@sa3_yu2





 

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