ぼくと東京

3
22

チクリ、時計の針が動く。一人暮らしをはじめて2回目の夏が終わってゆく音。網戸のすきまに潜ってやってきた風が全身を撫でる。足先から、頭へ。

東京。夢を見続けていられる街。果てしない欲望のなかに埋もれないよう、あがいて、もがいて、呼吸している。どうしてここにいるのかと理由を訊かれると、ぼくは説明できない。黙りこんでしまう。ほんとうは、言わなくちゃいけないことがあるのに。もどかしい。へへ、と笑って、つい曖昧にしてしまいたくなる。

立派な理由なんていらなかった。人に認められるために生きることにうんざりしていた。ぼくは、ただ、ぼくに近づきたかったんだ。一度は殺してしまったんじゃないかと思っていたぼく。ゾンビみたいに這いつくばって離れなかったぼくを、抱きしめたかった。

今度あの質問をされたらなんて答えよう。目を瞑ったままぼんやり考える、贅沢な時間。朝が来ればすっかり忘れてしまうようなことを。
その他
公開:18/09/03 23:54
小説 ショートショート 400字物語 一話完結

yuna

400字のことばを紡ぎます。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容