左手のすす

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「これを読んでいるということは、あなたはもうこの世にいないのですね」

その言葉から始まった手紙を、私は数秒理解することができなかった。それは見間違えるわけがない、3年前に他界した母の字だった。

手紙を読んでいるのはある病院の一室。1週間ぶりに目覚めた私に、訝しげな顔をしながら看護師さんがこれを渡してきた。

「あなたと過ごした1週間、本当に楽しかったです。随分と成長しましたね。こうやってあなたが大人になっていくときに、そばにいられなくてごめんね。お母さんはずっと天国で見守っています。
あなたが目を覚ました時、この1週間のことを覚えていないでしょう。だから、あなたの体を少し借りて手紙を書きました。手が汚れちゃってごめんね。これからも事故には十分に気を付けて、素敵な人生を送ってください。母より」

読み終えて、左手に残った鉛筆のすすをみつけた。
そうだ、母は左利きだった。
その他
公開:18/11/24 23:20

tom( 神奈川 )

ゆるゆると書いてます^^自分で読んでおもしろいと思うような文章が書きたいです!よろしくお願いします!

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