人形の中に

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「お姉ちゃん、これ」
私は薄汚れてボロボロになった人形を姉に差し出した。それは姉が幼少期ずっと大切にしていた人形。
「これ……」

この日、姉と数十年ぶりに再会した。両親と派手に喧嘩をして、家を飛び出した姉。妹である私だけは度々連絡を取り合っていた。両親はもう亡くなっている。そんな両親の葬式にも顔を出す事のなかった姉。父の時も、母の時も「せめてお葬式には……」と、電話越しに泣いてお願いしたっけ。それでも戻って来る事のなかった姉。その姉が今、私の傍に。数十年ぶりに見る姉の顔は皺が増えているけど、私の知っている姉。
私たちは今、病室にいる。私はもう長くない。姉には黙っていたけど、何かを察したんだね。こうして戻って来てくれた。人形を渡せた。

「……中に、二人の遺骨入れてあるから」
私のその言葉に、姉は人形を抱き締め「ごめんね」と、泣き崩れた。

良かった。これで私も両親も思い残す事は、ないよ。
その他
公開:18/11/22 23:35

壬生乃サル

まったり。

2022年…3本
2021年…12本
2020年…63本
2019年…219本
2018年…320本 (5/13~)

壬生乃サル(MiBU NO SARU)
Twitter(@saru_of_32)

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