思い出

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マリさんは泥棒だ。
でも、独占欲なら僕の方が強い。マリさんが帰って来なかった夜明、僕はついに泣いてしまった。そんな自分にイラついている。
ある朝、マリさんは小さなペンダントを僕には見せた。
「これはね、お昼寝していたお婆さんの部屋から持ち出したペンダント。お婆さんが初恋の人にもらった物だよ。初恋の人と本当にあった出来事も、嬉しかった気持ちも寂しかった気持ちも、思い出になってからの気持ちも全部ここにあるんだよ」
僕には、何故マリさんが誰かのそんな大切な物を盗んできたのかわからなかった。
「これを見てほしかったんだ。心は何処に宿ってるか、その時にはわからないものだから。思い出になってからじゃ、取り返せないこともあるから」
僕の切なさをマリさんは気づいてくれていたのか。
「何処にも行かないで」
僕の声は震えていた。
マリさんは僕の頭を抱きしめた。僕はそのまま眠ってしまった。
ファンタジー
公開:18/11/22 14:00

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