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マリさんは泥棒だ。
僕はマリさんに声を盗まれた。お陰で何も喋れなくなった。「代わりに」と言って、マリさんは自分の声を僕にくれた。
僕の声がマリさんの話し方で喋ってて、マリさんの声が僕の話し方で喋ってる。とても変な感じだ。
こんな声じゃ、学校に行っても誰とも話が出来ない。
僕は声を元に戻してくれとマリさんに頼んけど、その声がマリさんの声だったから笑ってしまった。
ひと通りやりたかったことを試した後で、ようやくマリさんは元の声を返してくれた。
「僕の声で何がしたかったの?」
照れくさそうにマリさんは笑った。
「どんな身体の使い方をしたら、その声が出せるのか知りたくて。その声の出し方を覚えたら、遠くにいてもその声で励ましてもらえるでしょ」
僕は何も言えなかった。
ーそれなら、遠くになんて行かなきゃいいじゃないかー
その声をぐっと呑み込んで、苦い微笑みを返した。
ファンタジー
公開:18/11/22 13:27
更新:18/11/25 21:07

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