アジャンタの水宮

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 広いプールだ。夜だった。
 僕は役員というか、むしろ審判員の立場で、そこにいた。水銀のような水面がとろりとろりと波打つ上に、選手の数だけ設置してある赤い三角のブイがぶよぶよと揺れている。
 役員と審判団のみんなが、電子時計を睨んでいた。
「そろそろかな」
「いきますか」
 僕は、テンガロンハットとロングブーツに着替え、慣れ親しんだカメラクルー達と一緒に、プールに潜った。
 青い静寂のなか、思い思いの扮装をした選手達が、プールの側面に穿たれた沢山の横穴に過不足なく端座し黙然としている。
 僕たちは一つ一つの穴を丁寧に覗き込み、呼吸停止している選手がいないかどうかを、調べて回る。
 今回の見回りでは、北欧から参加したブロンドの女性が、息を引き取っていた。
「やっぱり、調べてみないと分からないですね」
 などと、役員達が話し合っている。僕は空いた横穴に座わって、その一部始終を凝視している。
その他
公開:18/11/24 07:27

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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