時には甘いコーヒーを

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ぽつ、と涙を溶かしたら、コーヒーに張ったミルクの膜が、涙を避けるようにまあるい円を描いた。

喫茶店に流れる軽やかなクラシックとは相容れず、それはわたしを一層惨めにさせる。

ひとり涙を流し、その上ミルクにも嫌われて、大して好きでもないこの苦い飲み物を、チビチビと啜っているのだから。

もう、帰ろうか。
そう腰を上げたとたん、コーヒーの真ん中から、小人がぷく、と顔を出した。
「あなたが落としたのは、しょっぱい涙?甘い涙?」
小人が尋ねたので、わたしは
「もちろん、しょっぱい涙」
と返してやった。 小人は笑った。
「あなたは正直なので、甘いのをあげます。それから、真面目で、優しくて、頑張り屋なので、もっともっと甘いのをあげます。ほら、飲み干して」

そういうと、小人はコーヒーの中へ消えた。それをぐいと飲み干すと、今まで飲んだどのコーヒーより甘く、深く、美味しかった。
ファンタジー
公開:18/11/20 22:39
更新:18/11/20 23:05

あおい( 北海道 )

結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。

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