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 女の首が蝶番のようにのけぞった。白い喉元があらわになり、腰がソファーからずり落ちた。信夫は跪いて女の頭と腰とを抱いた。
 腕の中で女がグルリと首を回し、奇妙に引きつれた顔で信夫を見上げた。信夫は顔を背けた。女の息が信夫の頬をなぶった。
 女の口がパカリと開いた。信夫は女の口を手で塞いだ。しかし、その掌の奥底から、烈風が押し寄せてきた。
 女は、信夫の腕に身体をだらりと預け、仰向けのまま笑っていたのだった。
 信夫は混乱していた。女は、自分の手の中で狂い始めていた。信夫は女を見た。その瞳に信夫は映っていなかった。Oの形に開いた唇から一筋の滴が垂れた。
 信夫は、誘い込まれるように唇を合わせた。女の笑い声が信夫の内部に反響した。女の息が信夫の肺腑に通った。
 ソファーの背に女の頭を押し付け、女の狂乱を自らの内部へ取り込むように、信夫は女の息を呼吸した。身体の中に女がいた。女の中に信夫はいた。
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公開:18/11/22 09:03

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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