恩返し

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「よっこいしょ」
母さんを布団の上にそっと寝かした。が、
「もっと優しくしてえ。あーちゃん痛い」
まるで駄々っ子だ。溜息をつきたいのを我慢する。
 数年前寝たきりになり、最近じゃ認知症も加わった。
 勤め先にも無理を言って介護してるのに、当の本人からは不満ばかり。もううんざりだ。
 俺はすぐさま隣の部屋に行き、思い出再生装置を手に取った。こんなとき決まって頼るものだ。その名の通り、思い出を3Dで再現するプロジェクターのような装置だ。中には俺の記憶が詰まっている。
 三十年前にセットすると、目の前に小学生の自分と若い母さんが現れた。俺は風邪をひいて寝込んでいる。
「ゆうくん、薬の時間だよ」
「やだ!」
「アイス混ぜたからおいしいよ」
「粉薬入ってるもん飲まない!」
思わず苦笑した。今の母さんよりよっぽど面倒だ。
 今の俺は、昔してもらったことを返してるんだ。孝行はちゃんとしたい。頑張ろう。
その他
公開:18/11/18 03:26
更新:18/12/29 16:49

中江光太( 東日本と西日本の間 )

読んでくださりありがとうございます!

小さいときから本が好きで、
一年くらい前からちょくちょく小説を書いています。

主に推理小説を読みますが、
最近は別のジャンルもときどき読みます。

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