金木犀の揺れる夜

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 眠れない。
 蛍光灯の音。誰かの寝返る音。リモコンが照射する赤外線の音。布団の中に届く、不規則な滴の音。滴の音を聞かされ続けて狂った男の話を思い出す。

 今日は、窓と障子との間に紙の簾を引っ掛けた。すると、吊るしてもいない風鈴の音と、撒いてもいない打ち水の音とが、小さくなった。簾の向こうには、垂直に夏を越えようという気概に満ちた朝顔が並んでいた。

 紙の簾で「あちらがわ」を隔離した私は、一日中、脛を丸出しにして胡座をかいて過ごした、その夜だった。

 そっと顔を出す。
 金木犀の影が障子に映っていた。葉の一枚一枚の先端がバラバラに震えていた。幾万もの鈴が蠕動する音が、絶え間なく響き始めた。
 「これ」から逃れたいがための、紙の簾だったというのに…

 跳ね起きると、高い所に鳥影があった。その嘴の切っ先が叫び出すのを恐れて、私は再び布団を被る。目をつぶることはできず、汗は止まらない。
その他
公開:18/11/18 11:33

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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