あこがれ

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「他の人が望む姿にも化けることができる?」
信じられないだろうけど、話相手は学校の裏山に住んでいる狸だ。わたしがいつも、餌をあげるから、お礼に一日だけ別人に化ける力をくれると言う。
「はい、大丈夫です。この葉っぱを頭にのせて、その人に望む姿を聞いてください」
わたしはすぐに岡田君のところに行った。
彼は野球部のサード、おまけに頭の中は野球でいっぱい。
でも、彼の好みの姿になったら、一度くらいデートできるかもしれない。
グローブの手入れをしているところに後ろから近づいた。
「振り向かないで。ちょっと、教えて。有名人でいいから、岡田君の好きな人って誰?」
葉っぱを頭の上にのせる。
「え、何だよ、それ。恥ずかしいな。親父の影響で好みが古いんだよ」
昔の女優さんだろうか。
「マジで答えるとあこがれは長嶋かな」
わたしは恐る恐る、自分のあごを触った。ざらりとしたヒゲの感触があった。
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公開:18/11/18 11:14

田辺 ふみ

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