ジャッジ

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 僕は前日の昼から、MTBレースの会場に向かって自走していた。ウォーミングアップに丁度いいってノリで。
 その夕方。僕はとうとう疲れ果て、材木屋やドライクリーニング工場のある県道の並びに建つ家の軒下を一夜の宿と決めた。
 開け放しの窓からは、鳥人間コンテストを放送中のテレビの音声と、肉の無いカレーの匂いが漂っていた。僕は、玄関先に停めてあったオンボロのほろ付き軽トラに自転車を積み込み、そのまま会場入りした。

 レースは散々だった。

 僕はトラックを返そうと同じ家に引き返した。そこには新しいトラックがとまっていた。豆のスープの香りがした。
 その家の父親と次男とは冷戦状態で、母親はとっくにさじを投げていた。僕は耳を塞いでその場を去ろうとしたが、芸能人水泳大会の再放送を見ていた長男に呼び止められた。
 そして豆のスープが煮えるまで、その家族に対する中立的立場でのジャッジを任されたのだった。
その他
公開:18/11/15 08:54

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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