恋ドラ【おでん】

男は、ふらっとおでん屋に立ち寄った。
そこには転勤先で知り合ったパートの女が一人飲んでいた。
「となり、いい？」
「どうぞ〜」
「一人？息子さんは」
「旦那とこ。元ね」
女は、器にある竹輪を箸で突き刺した。
「これ、私みたぁい」
「ぽっかり、穴が開いてるな」
男は熱燗と卵を注文した。
「卵、好きなんだぁ」
「無性に食べたくなるんだ」
「こどもみたいね」
「僕が本当に好きなものは、この中にいるんだ」
「黄身？」
「ごめん。くだらなかったね」
女はその意味に気づいて、グラスに残ったぬる燗を飲み干した。
「二軒目行く？」
男は、女の手にそっと掌を置いた。
「なにもかも忘れていいんじゃない。たまには」
「ねぇ、ウチのおでん食べに来ない？」
「卵、あるの」
「あるわよ、凄〜く熱い卵」
「火傷するくらいがいいな」
「じゃあ、焼き殺したげる」
「楽しみだ」

男は女の腰に手をやると、街の雑踏へと消えた。