幻視

舞台の中央で渾身の演技を披露する俳優に観客の視線が注がれる。

「ああ、この物語が喜劇というのなら、王女の笑顔を取り戻すことが出来たのに…」

手に持つ剣を床に落とし、跪き、天に祈りを始める。

「ああ、神様…私は何も欲しません。そのかわり、王女の笑顔を返して下さい…」

強く胸を抑え、天に訴える。
男を涙を流すことは女々しいと非難されてしまうが、それ以外に天に訴える方法は見当たらなかった。

俳優は蹌踉めきながら、立ち上がる。
生気も迫力もない…

彼の唯一の救いである王女の笑顔は天に報われるまで封印され続ける。

全ての演技が終了し、幕が悲しくおりる…

観客は生唾をのみこみ、舞台の余韻に浸った…