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情を通じて殺した女を芒原に埋めて数十年。今ならば、女の首を絞めた帯を解き、女の出刃に心臓をくれてやってもよかったと思う。
疲れていた。夜風を凌ごうと入り込んだ荒地に、冷たい雨が落ちてきた…
芒の茎を身体で押し均して、横たわった。すると、小さな調べが聞こえた。玲瓏でまろみを帯びた、高いのか低いのか、続くのか続かぬのか知れない響き。
その音にあの女の洩らす息を感じた。がばりと身を起こした。傍に蛇の穴があった。背を雨に打たせて穴を覗き込んだ。響きが止んだ。
暗い蛇穴の奥から俺を見上げる眼があった。
「あの女だ」
その途端、俺は穴に落ち、とぷんと水に浸かっていた。見上げると、穴の口を、女の帯が抜けていった。
鉢を伏せたような壁面にびっしりとついた雫が垂れるたび、あの調べが、大音響でこだました。
「ここは、あの女の髑髏の中だ」
俺は耳を塞いで、ゆらゆらと水底へ沈んでいった。
疲れていた。夜風を凌ごうと入り込んだ荒地に、冷たい雨が落ちてきた…
芒の茎を身体で押し均して、横たわった。すると、小さな調べが聞こえた。玲瓏でまろみを帯びた、高いのか低いのか、続くのか続かぬのか知れない響き。
その音にあの女の洩らす息を感じた。がばりと身を起こした。傍に蛇の穴があった。背を雨に打たせて穴を覗き込んだ。響きが止んだ。
暗い蛇穴の奥から俺を見上げる眼があった。
「あの女だ」
その途端、俺は穴に落ち、とぷんと水に浸かっていた。見上げると、穴の口を、女の帯が抜けていった。
鉢を伏せたような壁面にびっしりとついた雫が垂れるたび、あの調べが、大音響でこだました。
「ここは、あの女の髑髏の中だ」
俺は耳を塞いで、ゆらゆらと水底へ沈んでいった。
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公開:18/11/12 17:20
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
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