アシュマデーヴァの心臓

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悪名高い友人が鬼籍に入ったと聞いた時も驚いたが、突然の別れを悼む間もなく、その友人と同じ声を発する人形が居候になるなどとは考えもしなかった。
「何を驚くことがある。この世界だって三秒前に造られたかも知れないんだぜ」
コールタールのような珈琲をトレイごと突き出しながら人形は言う。
「ついでに言うと十五秒先まであるかも分からない、だろ? 止めてくれ。現実離れしている君が言うとまるで洒落にならん」
人形はどこまでも饒舌だった。在りし日の彼の声で彼が言いそうなことを語り、そして私に不味い珈琲を提供し続ける。
対する私も人形の動きがぎこちなくなった頃をみて、机へと拾い上げては後頭部に鍵を刺して回してやるのだから大概なのだろう。
突如始まった奇妙な共同生活における不文律。即ち過去に触れず、名を問わず、穴を覗かないこと。
きっとこれらは私が物になるその時まで守られる。
しかし不思議と恐ろしくはないのだ。
その他
公開:18/11/13 22:52
更新:18/11/20 19:56

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