毛皮を着替えて

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死んだ猫は毛皮を着替えて帰ってくるものなのだが、僕は今その着替えに失敗してしまった。
つい先程まで光を放っていた子猫はもう動かない。

器を失った僕は、最後にひと目ユキちゃんに会いたいと思った。
職場でスーツ姿のユキちゃんを見つけた。その時、ユキちゃんの手元で何かが輝いた。箱から出されたばかりのボールペンだ。

えっ、これに着替えるの?

疑問に思いながらも僕はボールペンになった。
ユキちゃんはスーツの胸のポケットに僕を入れた。ユキちゃんの体温が懐かしかった。

でも、そこにいたのは僕が知らないユキちゃんだった。資料を睨む目つきも、人と話す時の作り笑いも、トイレでの涙も、僕は知らなかった。
ボールペンの僕は、半年であっさりと捨てられてしまった。

ただ、その半年のお陰で、僕はまたユキちゃんの元に毛皮を着て戻って来ることができた。

僕は前よりもずっとユキちゃんのことが大好きになっていた。
その他
公開:18/11/13 21:49

ぱせりん( 中四国 )

北海道出身です。

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