交換

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私は、生まれた時は人間だった。世界がどんなものなのか、神々がどんなだか知る術のないごく普通の無力な人間だった。
だが、今や私は神である。一つの世界を所有する。
神々の街の市場をぶらぶら歩いていると「おい」と腕を掴まれた。「なんだ」そこにいたのは、私が生まれた世界を作った神だった。
「西の大地が腐った」
そいつは言った。私は力が抜けた。
元の世界に私の故郷はもうないのか。故郷の人々を新しい世界に住まわせて、地獄を見せてやりたかったのに、間に合わなかったか。
私は虚空を見つめ立ち尽くした。
「故郷のことなら心配するな。腐った大地に埋もれる前に掬い取って守ってやった」
「そうですか」
低い声で私は応じた。この知らせが嬉しいのかよくわからない。いいや、やはり嬉しい。ふつふつと力が沸いてくる。
「それを譲っていただけますか?勿論タダでとはいいません。私の新しい世界の選りすぐりの物と交換しましょう」
ファンタジー
公開:18/11/13 21:13

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