生まれる

3
4

神々の一員となって、私は己の世界を持っている。
私の世界は両腕でやっと抱えられるほどの種から育った。種の表面に光と水を纏わせて夜のない世界を作った。
緑はすくすくと育ち、虫も、魚も豊かだ。やがて鳥が生まれて歌い出した。鳥の歌を聴いて、私は音楽を思い出し、リュートを奏でた。
音楽は風になり、草原の草、森の木々、海に波を生んだ。
風とともに馬が生まれ、たてがみをたなびかせて草原を駆けた。
私の世界は美しい。

美しい世界。緑は若く、伸び続ける。
海や川の流れで生まれる音も心地よい。空に浮かぶ雲も私の物と思えば愛おしい。

けれど、私は淋しくて虚しい。
生き生きとした海の生物や着飾った動物たちがどれだけ生まれても、うっすらとした空虚さは消えない。
人間に会いたい。
だが、私は人が怖い。私は自分が臆病だと知っている。
何よりこの美しい世界を無理解な奴らに与えたくない。
人間なんて大嫌いだ。
公開:18/11/13 17:21
更新:18/11/13 17:23

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容