水語り

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 自転車に跨がり坂を下ること四分。緑の天蓋がアスファルトに斑の模様を落とす一本の道がある。道は落ち葉だらけで周りの草は伸び放題。ぽつりと佇む錆だらけの立て札は辛うじて『立見ダム東口』と読めるが、今にも根元からぽっきりと折れてしまいそうなほどに朽ちかけている。
 ダムの水は水草の茎が見えるほど澄んでいて小石に混ざって小銭が瞬くのが見えるのだが、拾おうとすると大人たちからこっぴどく怒られるので、いつもの通り見て見ぬフリをする。
 釣り竿を担いでボートに乗る。中心へと漕ぎ出すと、水底の雑居ビルの屋上の女の子から手を振られた。

――ここはな、そのむかしそらぁべっぴんなお姫様がな
――旱魃に苦しんだ農民を哀れんで
――おさんと呼ばれる狐がナギの葉を乗せてくるりと宙返り
――武士が刀を煌めかせ、えいやと一太刀浴びせたそうな
――すると妙なる楽とともに観音様が顕れて
――鬼がにっこり笑ったそう
ファンタジー
公開:18/11/13 15:57
更新:18/11/20 19:56

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