わかったふう

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「お前は呑みこみがヘタだなぁ」
幼い頃、不器用だった私はよく父親に叱られていた。
父は鵜だ。
いろんな人を丸呑みにすることで知識や経験を得ていた。学者や医者に小説家、冒険家。難解な本も鵜呑みにすることで、そのすべてを自分の栄養にしていた。
そんな父も、母のことだけは鵜呑みにしなかった。だから一生母のことはわからないと笑っていた。野花や星と同じように、わからないままで愛おしいのだと。
私は父のような鵜になることができず、鵜飼いになった。父や母や妹と魚をとり、観光客に喜んでもらう。そんな日々をおくった。
あるとき妹が、拾ったきた恋物語を鵜呑みにして、わかったふうなことを言ったものだから、父は烈火のごとく怒った。あんな父を見たのは初めてだった。
父は心のどこかで、自分のわかったふうを恥じていたのかもしれない。
明日、妹は嫁いでゆく。
川面の漁火を見ながら、今は亡き父を家族みんなで話す最後の夜だ。
公開:18/11/10 17:59
更新:18/12/30 20:50

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