奏でる水平線

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 二人は砂丘の底にいた。白砂の屹立に囲まれ、上空には新円の青空がぽっかりと口をあけていた。
 座り込んだ女の膝は天秤のように、正確に均等な数の白砂を、分け合っていた。
 モブモブという音とともに、男が斜面を滑り落ちてくる。すべての裾をたくし上げ、ありったけの肘と膝とを砂に埋めたままで。
 その断末魔のらくだのような男の姿を眺めながら、女はコップ一杯のミネラルウォーターを欲していた。
「水平線に沈む夕日は、そりゃきれいなんだぜ…」
 先刻通り抜けた松林も、海の彼方の水平線も、今ではもう、失われた伝説だ。
 ―ここには太陽と砂と私だけだ。
 砂は幾重にも風紋を刻んでいた。それはレコード溝のように、美しい風音を記録しているだろう。
 ―二人のいびつな足跡を、美しい音楽が、かき消してくれたのだ…
 女はそれが水平線だと思った。そして、サンダルを両手に持つと、確かな足取りで砂の壁を登っていった。
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公開:18/11/10 11:35
更新:18/11/10 16:05

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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