電気の匂ひの男

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 太陽光発電の匂いはゴム臭い。マンガン乾電池の甘い匂いは嫌いじゃない。12Vの四角い電池は、ウニみたいな匂いがした。
 アルカリ電池は柑橘系で涎が出てしまうし、水銀電池はジントニック。エボルタはエネループよりサイダーの匂いが強い。
 低圧より高圧の方が雑味がない。変電所の横を通るときは脳に来るホルマリン臭に息を止める。電線から染み出る匂いは、安い墨汁の匂い。
 直流より交流の方が風味が強い。バッテリーはたいてい酢飯みたいで、指に染み付くのが困る。モバイルバッテリーが爆発する瞬間はイカ焼きの匂いでお腹が鳴る。でも爆発してしまえば魚の粗みたいに臭い。
 雷はやっぱりすごい。野生のものはやっぱり違う。シトラスミントの匂いがする。でも雨が降るとすぐに消えてしまうのが悲しい。
 静電気はラベンダーの香り。痛みと引き換えの快感。
 だけど一番好きなのは、人間の神経を伝わる電気の匂い。錆びた鉄の味わい。
その他
公開:18/11/11 19:23
更新:19/05/28 11:39
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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