うつし衣

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秋終盤の昼下がり。とある山の裾野。天女は落ち葉の上に仰向けに体を横たえ、紅葉(もみじ)を照らす木漏れ日を、枝葉の隙間から覗く青空を仰ぎ見た。そして我が意を得た。

人間界に素敵な詩(うた)がある。『ちはやぶる 神代も聞かず龍田川 からくれなゐに水くくるとは』天まで詩の評判が知れ渡った時、天女にはその光景がありありと浮かんだ。見事な紅葉がはらはらと川へ落ち、水面を染め、流れ下るその景色が。

だけどきっと、と その薄い葉を思った。葉に光が透けたら、それはまた美しいでしょうね。

かくして天女は下界へ降りた。
思った通り、下から見上げると、枝先の赤い葉は空の青によく映えた。

天女は羽衣を広げ、空の青を衣に移した。そして赤葉を数枚摘み、そこに浮かべた。葉は衣に溶け、空の青、葉の赤は模様となった。

風に流れるまま衣は揺れ、所々散った赤を際立たせる。満足した天女は衣を羽織り、天界へ帰っていった。
ファンタジー
公開:18/11/07 23:20
更新:18/11/16 14:29
屏風歌 在原業平

綿津実

自然と暮らす。
題材は身近なものが多いです。

110.泡顔

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