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 バス停二つ分先の、坂の上の洋菓子店。
 私が好きで、あの人が眉を顰めそうな、とびっきり甘いバタークリームと、マンダリンオレンジを使った、何か楽しくなるようなものを…

 カランカラン。店内に先客。
 反った背中に定規のような肩。上品なトレンチコートは、アミカ・ソレイユのものだとすぐ分かる。ウエストラインが独特だから。それは、私より二つほど上の世代向けのトレンド。その整えられた爪が、ブリュレとタルトを指していた。
 気がつけば私は、ホールケーキを指差していた。アールグレイのシフォン。訂正するのが億劫で、包装にリボンまでオーダーしてしまう。
「キャンドルなどはご入用ですか?」
「いえ。結構よ」
―それじゃ、さよなら。

 先に店を出た女性の姿は、もう見えなかった。バスを待つ私に、ケーキの箱がなぜだか暖かかった。坂の下には海があるような気がした。バスが近づいてくる。私は、海まで歩こうと思った。
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公開:18/11/08 18:21

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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