おにぎり

19
12

中身は、梅干しか鮭だ。塩で握った温かいご飯に、海苔が巻かれている。母さんのおにぎりは、柔らかくて優しい。
学生時代友達と遊んで夜中に帰った時、母さんが起きて玄関で待っていて、黙って温かいお茶とおにぎりを出してきたっけ。

その夜、同僚と飲んで帰ってきた僕は小腹がすいていて、結婚したばかりの妻におにぎりを握ってくれるように頼んだ。一口頬張り、違和感を感じた。
(違う。ごはんの温かさも塩の加減も柔らかさも)
「違う!」
僕はいきなり立ち上った。
「どうしたの?」
妻が驚いた顔で僕を見る。僕は家を飛び出した。(違う、違う、違う、違う)

気がつくと僕は実家の前に立っていた。ドアに手をかける。(開いてる?)
玄関に母さんが立っていた。
「お帰りなさい」
母さんは温かいお茶とおにぎりを黙って置いた。僕はおにぎりを口にする。
(これだよ、これこれ)
貪るようにおにぎりを食べ、母さんと微笑みを交わした。
その他
公開:18/11/08 16:58
更新:18/11/08 18:28
家族

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容