なないろ

『なないろ』をお母さんが買ってきた。小瓶に入っている、虹色に煌めく細かい粉だ。
「これって、七味？」
「知らない。でも綺麗よね」
母はうっとりするだけで特にそれ以上考えることをしなかった。
『就寝前にお使いください』
だからホットミルクにひと匙を入れた。くるりとひと回し、絹色に虹色が渦を巻く。味に何も変化はないけれど、なんだか涙が一筋溢れた。
その夜、昔の私を夢に見た。友だちと喧嘩した。些細な誤解と気づくには遅すぎて、後悔して落ちこんだ。
『十年経てば単なる笑い話よ』
母が笑ってホットミルクを入れてくれた。優しくてまろやかで、心の芯まであったまる。母の言葉が大きくて、ポロリと涙がカップに落ちた。
ハッと私はうたた寝から目覚めた。どこから夢だったのか。でも、にっこり笑う母の遺影の前に『なないろ』が置いてある。
「お母さん、会いたいよ」
悲喜交々の日々の中、貴方は私の雨上がりの虹でした。