手違いの窓

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 手違いがあって、部屋の窓と壁とを入れ替えなければならなくなった。私は、眠くて瞼を開いているのもつらい。

 壁が外されると、なぜか病院の診察室が現れて、私は看護助手をしていた。瞼を持ち上げながら点滴を入れ、尿道カテーテルを挿入したりしている。

 午後も遅くになって、壁だったところが窓になると、そこから片腕の無いエヌさんの声が聞こえた。見ると、そこにはエヌさんの、失われた側の腕だけが、窓枠に肘をかけていた。

「エヌさん。今日はどうしたんです?」
「たまには、俺も顔をみせなきゃ、かっこがつかないだろう?」

 私は、腕だけなのにどうやってしゃべっているのだろうと思い、その馬鹿な疑問に笑ってしまう。

 それから、ともすると眠り込む瞼を、いっそ切り取ってしまってはどうかと、外科部長もちかけてみた。

 すっかり工事が終わる。新しい窓際に置かれたガラス瓶の中で、二枚の瞼が涼しげに泳いでいる。
ファンタジー
公開:18/11/07 09:26

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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