50万の演技

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何度目かのチャレンジで解除した暗証番号の並びは、母の誕生日だった。

「なに、ぼおっとしてやがる。早く引き出せ。50万だ」

先輩は「ひったくり、ちょろいな」と囁いてきたが、俺の心はすっかり別のことを考えていた。


上京して三年。実家には帰っていない。女手ひとつで育てた息子は、東京で役者の修行をしている。そう信じ切って、毎日仏壇に手を合わせ応援してくれている。そんな母だ。

ちきしょう。何もかも嫌になって、俺は先輩を突き飛ばし、お金を奪って駅へと駆け出した。


田舎の空は相変わらず広い。連絡もせずに戻ったのに、母は玄関先で俺を待ってたかのように言った。

「なんね、急に電話くれたかと思ったら、会社の金を落としたって。とにかく急いで。これ、50万」

「あー、ごめん。それ見つかったんだ。ほら…」

初めてのアドリブ。でも、もう演技はやめよう。

そう思ったら、とたんに涙がこぼれ出た。
その他
公開:18/11/06 23:03

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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