ハリネズミの恋（上）

ハリネズミのジレンマってやつは、お互い針を持ってるから成立する話であって。
仮に片方が普通のネズミだったりした日には、ハリネズミの抱えるジレンマは、前述の比じゃないよ。
触るところまで無理やり近付いたら、針を持たないネズミちゃんは、あわれ串刺しの刑。
キスもハグも、手を繋ぐのすら禁止なハリネズミ君。
ぎりぎりの距離から眺めるだけで、永遠に我慢し続けなきゃならない。
手に入れたら失くしてしまう絶望的な恋。

恋するハリネズミ君は、やがてこう考える。
僕の針さえ無かったら、全部上手く行くじゃないか。
こんな邪魔な針は引っこ抜いて、あの子と同じ普通のネズミになろう。
背中にびっしり背負った針を、一本一本折ってむしって。
自分の手も自分の針でずたずたに切り裂きながら、とうとう残らず赤むけの丸裸にしてしまいました。

恋に目がくらんで、身を護る針を捨てたハリネズミ君。さて、どんな結末を迎えただろう？